きみはカラフル
「………あの、俺の顔に何かついてますか?」
あまりにも凝視し過ぎたのだろう、席に案内し、メニューを手渡した直後に、彼が苦笑いを添えて尋ねてきたのだ。
「あ、いえ、あの、そうじゃなくって……すみません、ちょっとボーっとしてしまって……」
「大丈夫ですか?どこか体調でも悪いんじゃないですか?」
彼は訝しむどころか優しく心配してくれる。
はじめてのお客さまに気を遣わせてしまったことに、わたしは即後悔、即反省し、なるべく深く頭を下げていた。
「ご心配おかけして申し訳ありません。この通り、元気です」
体を起こし、両手で拳を握って元気アピールをする。
するとその様子が面白かったのか、彼はフッと声に出して笑っていた。
「楽しい人ですね。……雪村さん?」
彼はネームプレートにちらりと視線を流し、またわたしを見つめる。
人懐っこい笑顔は、なんだかこちらまで明るい気分にさせてくれるようなエネルギッシュさがあった。
「はい、雪村です。あの、それでは、お決まりになりましたらお呼びくださいませ」
危うく、その笑顔ととりまくカラフルに気持ちを攫われてしまいそうになり、わたしは慌てて仕事用のお決まりフレーズを述べて退散したのだった。
カウンターに戻る際も、彼の放つ様々な色達が視界の端に入ってきて、わたしを落ち着かなくさせていた………