今さら本物の聖女といわれてももう遅い!妹に全てを奪われたので、隣国で自由に生きます
「魔力量が飛び抜けて多いようだ。まあ、魔女と呼ばれたあの女の娘だからなぁ………。その忌々しい魔力も引き継いでしまったか。厄介なことだ、本当に」

公爵は続けて言った。

「これがミレーヌならどれほど良かったか。いないものとして扱われているお前がこの国の聖女など、笑わせる。ああ、そうだ。聖女の役割はミレーヌに任せるか。お前にはとんだ大役だもんな。お前のような愚図で愚かで矮小な人間にはとてもではないが務まるまい」

そこで公爵は言葉を切って近くの侍女に声をかけた。

「なぁ、お前もそう思うだろう」

突然話しかけられた侍女は驚きながらも、蔑みを隠さない笑みを浮かべて私を見た。そして、忍び笑いを漏らしながら言ったのだ。

「はい、公爵様の仰る通りですわ」

ーーーどうして、私がこんな目に遭わなければならないのだろう。

どうして、私はこんな生活を送らなければならないのだろう。母親が生きている時はまだ耐えられた。味方など誰もいなくても、母親がいた。いつも泣いてばかりだったが、それでも母は私の唯一の味方だった。

母だけが私を想ってくれていた。それは、母が死に、こんな生活を送るようになってから気がついたことだった。涙は不思議と出なかった。ただ、ただ苦しいだけで。毎日、息をするのすら嫌になるほどだった。

そして、私は本邸へと迎えられた。

義妹との顔合わせをしたのもその頃だ。義妹は明るくて、一心に愛されて育ったのがよく分かるようだった。私は義妹が怖かった。恐ろしくて、嫌だった。義妹は何でも私から奪ってしまう。母も、父も、周りからの愛情も、全て。

義妹は私によく懐いた。愛されて育った妹は笑いかければ誰でも笑い返されると信じていたのだろう。最初は戸惑っていた。だけどミレーヌの笑顔に笑い返さねば、影で父に折檻を受けるようになった。それから、私はミレーヌの前ではひきつった笑みを浮かべるようになった。

ミレーヌはそんなこと知らないだろう。

そして、ミレーヌはある日私に言ってきた。

『お姉様!お姉様聞いて?私、聖女になったのよ!』
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