今さら本物の聖女といわれてももう遅い!妹に全てを奪われたので、隣国で自由に生きます
───ドオオオォン!

硝煙が立ち込め、ツンとする匂いが鼻をつく。燃える匂いがする。火災の匂いだ。あちこちで悲鳴が聞こえる。私の声はかき消されてしまったかもしれない。そう思ったが、しかし殿下の目を見て、ちゃんと聞こえていたことに気づく。彼の紫根色の瞳がめいっぱい開かれている。私はそれを見て、気分が良くなった。

「………さようなら、マクシミリアン殿下」

最後に彼の名前を告げて、私はそのすぐ側で悲鳴をあげて彼に抱きついている女を見た。私の目には何の感情もなかった。怒りも、悲しみも。ただただ虚しかった。こんなののために十六年間を無駄にしたことが、残念でならなかった。

───さようなら。私という人間の尊厳を奪い、奪われることを当たり前とさせた人。

そして、悪魔であった私の義妹とも、ここでお別れだ。人々の悲鳴と怒声、爆破の破裂音を聞きながら私は庭園を後にした。

知らずして早足になる。胸の鼓動がどんどん早くなる。興奮で息が早くなった。初めてだ。初めて、私は今、自由というものを手にしている。興奮と感動と、そして息のしやすさに驚きを覚えた。

───全て、終わった

悪夢のような毎日は終わりを告げ、私はもう何にでもなれるのだ。何をしようか。これからどうしていこうか。幸いにも私には聖女としての力がある。この膨大な魔力があれば生きていくのに困らないだろう。

そう思って、その時だった。

「へぇ、舞台としては最高の出来だね」
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