今さら本物の聖女といわれてももう遅い!妹に全てを奪われたので、隣国で自由に生きます
ちなみに公爵邸の方だが───。

そちらもまた、今頃とんでもない騒ぎになっているだろう。ミレーヌの母は公爵と結婚し娘を産んでおきながら不倫をしていた。愛人がいたのだ。

ミレーヌの母は私が告げ口をするとほ露ほども思わなかっただろう。私がいてもいなくても構わず、堂々と愛人との逢い引きを行っていた。

私はその様子を長年見ていたから、その愛人のことをよく知っている。ミレーヌは知らぬ存ぜぬで通すだろうが、間違いなくあの娘も知っているだろう。

だから、私はひとつだけお節介を焼いたのだ。

ミレーヌの母の恋人に、ミレーヌの母を装って手紙を書いた。そして、公爵が家にいる日にあえてその愛人を呼び寄せたのだ。手紙には別れ話の内容を忍ばせて。愛人は執着にも似た想いをミレーヌの母に抱いていたから、一悶着どころの騒ぎでは無いかもしれない。もしかしたら刃傷沙汰になっているかもしれない。

そして、呼び出した日は奇しくも今日だ。

恐らく愛人と公爵は鉢合わせをして、さらに公爵家にも仕掛けられた爆破魔術も作動して大変な騒ぎになっているだろう。

しかも、ミレーヌの母親は金遣いが荒かった。元、平民の出だと言うがとてもではないが平民がする金の使い方ではなかったのだ。

最終的には公爵邸を担保に金を借りる始末。しかもそれを公爵は知らない。その担保にした公爵家は大炎上、金を借りるあてがないどころかおそらくその金を返す手筈すら夫人にはないはずだ。

公爵も、今回の───私の疾走と、聖女偽装の件について責任を取らされるはず。聖女を蔑ろにし、挙句逃げられた罪は重いだろう。恐らく爵位は剥奪されるはずだ。公爵位は召し上げられ、邸宅は炎上し、更には膨大な借金だけ残った公爵夫妻はどうするのだろう。ミレーヌもまた、どうするのだろうか。

今となっては関係の無い話だが、王太子もミレーヌも、そして公爵夫妻もまた、どう転んでも待ち受けている未来は明るいとはとてもではないが言えないだろう。それを考えた上での行動ではあったが、それでも胸がスッキリしたとはやはりいえなかった。

なんとも言えない、気分の悪さだ。
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