愛され、溶かされ、壊される
ジャー
トイレに行き、手を洗っていると

「あの、濱野さん」
「え?高島さん?」
高島さんと取り巻きの社員がいた。

「福井くんと、別れてくれません?」
「え?どうして?」
「わかりません?今、自分の顔見て下さいよ!」
「え?」
「まさかつりあうとでも思ってます?」
「それは……」
「私の方が断然お似合いなんだから!」
「そうよ!美南、すごい可愛いし!」
「現状をわきまえた方がいいですよ」
「……」

言い返せない。そんなこと自分が一番分かっているから。

「もう、やめな!!」
「加那ちゃん? 」
「山川さん。でも……」
「あんた達の声、トイレの外まで聞こえてたよ。しかも福井くん、トイレの外いるよ!」
「え?マジ…」
「美南、ヤバイよ…」
少し怯えたようにして、高島さん達はトイレを出ていった。

少し時間をおいてトイレを加那ちゃんと出ると

タタタタ―――――

「あおちゃん!?」
「え?竜くん?ちょっ…加那ちゃんいるから、恥ずかしいよ…」
竜くんにきつく抱き締められていた。
「怖かったよね…。ごめんね…助けてあげられなくて。女子トイレじゃなかったら、すぐに駆けつけてたんだけど……」
「大丈夫だよ!竜くんと付き合ってるんだから、これくらいは」
加那ちゃんの前で恥ずかしいのに、竜くんの爽やかな香水の香りが、とても安心してつい抱き締め返してしまった。

「え?あおちゃん?」
まさか私が抱き締め返すとは、思わなかったのだろう。
少しびっくりしたように、竜くんが言った。
「え?あ、ご、ごめんね!」
慌てて離れた。
「いや、スッゴい嬉しい!どうしよう……このまま連れ去りたい!」
「/////」

「ちょっとお二人さん?仕事してね!」

「え?か、加那ちゃん!ごめんなさい。すぐ戻ります!」
私は一人急いで戻った。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
残された竜と加那の会話―――

竜「ねぇ、邪魔しないでよ!」
加那「別に、邪魔してないわよ!あんた私のこと、全、然、目に入ってなかったでしょ?」
竜「当たり前。あおちゃん以外目に入らないし」
加那「仕事中くらい、我慢しなさいよ!」
竜「無理。あおちゃん助けてくれたのは、感謝してるけど…」
加那「私だって葵の友達だし、当たり前でしょ?」
竜「あおちゃんを取らないでね!取ったら殺すよ。いくらヤクザの彼女だからって、全く怖くないし」
加那「でしょうね。びっくりした。あの勇二があんたのこと怖いって言ってたもん!」
「………」
「………」


加那は思い出していた。
竜が入社してすぐの頃、
「濱野さんのこと知りたいから、君の知ってること全部教えて!」

なんか闇のようなことを感じた加那は、彼である勇二に相談した。勇二にはヤクザ組長の兄がいる。何かあれば助けてもらおうと。
そして、勇二と二人で竜に会いに行き
「あんたが純粋に葵のこと知りたいなら、教える。でも傷付けるつもりなら――――」

ダン―――――
「教えてくれるの?くれないの?
俺さぁ、そうゆう回りくどいの嫌いなんだよね…!」

その時の竜の目に、いつもの美しさはなく黒く奈落の底に繋がっているような目だった。
< 11 / 73 >

この作品をシェア

pagetop