元書店員ですが、転生したら貴族令嬢になっていました!

24.③ 酒は飲んでも飲まれるな!

 マカロニグラタンに、野菜とベーコンのスープ、オニオンガーリックドレッシングのサラダを準備し終わった頃にメイドがヴィクターの到着を知らせた。ほどなくして厨房に到着した彼は、私のいつもの格好に心底驚いたようだ。

「……トラウザー?」

 私はエリックをにらんだ。ヴィクターが今夜来ることを言っておいてくれたらせめてシンプルなドレスに着替えてから料理したのに。ヴィクターに少年のような恰好をしているのを見られるのは全然恥ずかしくもなんともないが、いくら記憶喪失だったとしても貴族令嬢はそういうことをしない。もう絶対変だって思われるよ。

「屋敷でくつろいでいる時は大体この恰好なんだよね?」

「――うん、まぁね、楽だから」

 私の兄に対する遠慮ない口調にも驚いたようだ。

「ささ、ヴィクター座って。一回リ……アリアナのご飯を食べたら、他のは食べられなくなるよ!」

 エリックが名前をポロリと言いそうになって、私はドキッとする。

「お前が散々この前の舞踏会の時にアリアナの手料理を自慢していたから知ってはいるが、これは一体なんだ?」

「マカロニグラタンだよ」

 兄がさもみんなご存知の!という風に言うが、マカロニグラタンって和風洋食だったかも……。でもまぁいいや!美味しいから!

 兄はヴィクターと自分のワイングラスを出してきて、白ワインをザバザバとついだ。あー私も飲みたい。白ワイン。(身体が)18歳なのが憎い…。

 ヴィクターは厨房でご飯を食べることには特に異を唱えず、大人しく兄の隣に座って、グラスをかちんと鳴らし、それからマカロニグラタンを口に運ぶと――

「うまいな…!!」

 これは――かなり本域で褒めてくれた。お口に合ったようで何よりです。だろうだろうと隣でエリックが相槌を打ちながら、2人のフォークが止まることはしばらくなかった。

 ☆☆☆

 マカロニグラタンをたっぷりおかわりし、サラダもスープもうまいうまいと完食した2人はワインをどんどん開けていく。あまり顔色が変わらず酔った様子が見られないヴィクターに対し、兄の顔は既に真っ赤である。これは完璧に酔っていらっしゃるね、兄様。

「アリアナー、明日の朝俺ハムが入ったオムレツ食べたい…」

「わかった。それ聞くの3回目。で同じこと言うけど、明日二日酔いだろうから、あっさりスープの方がいいと思うよ」

「オムレツとは?」

 ヴィクターが口をはさむ。

「オムレツってのは、リンネが作ってくれる朝食の中でもピカイチで俺が好きな卵料理!」

 酔いまくった兄がつるりと私の名前を口にした。私は思わず、飲んでいた水のグラスを取り落としてしまった。
< 35 / 68 >

この作品をシェア

pagetop