元書店員ですが、転生したら貴族令嬢になっていました!

25.② 秘密を知ってしまいました!

 どうしようかと悩んだのは一瞬だった。私はアリアナのことが知りたくて、彼女に心の中で謝罪しながら日記を開いた。中は私の真っ黒なノートとは似ても似つかない、綺麗な筆致で整然と書かれている。
 そして本当だったらこの国の文字は読めないはずなのに、その内容を私は読むことが出来た。頭の中で勝手に日本語に自動翻訳出来るのである。それは私の身体がアリアナのものだからかもしれない。神のいたずらに私は感謝した。

 数時間後、全てのページを読み終わった私はアリアナを想い、泣いた。


 ☆☆☆

 時刻はすっかり深夜だったがとてもじゃないが眠れそうになく、私はひっそりした廊下に出て、厨房に向かった。月明かりのもと、手探りでランプをつけると、勝手知ったる厨房で、ハーブティーをいれるべくやかんでお湯を沸かすことにした。ハーブを取り出し準備を終えると、お湯が沸くまでのしばしの間、ぼんやりと先ほどまで読んでいたアリアナの日記に気持ちが呼び戻されてしまう。

 あの日記はアリアナの心の叫びそのものだった。

 アリアナと接したことのある人が思っているような、感情がないわけでも、見下しているわけでもなくて、ただただ彼女はつかみきれない自分というものに苦しんでいる普通の十代の女の子に思えた。多分彼女は―――今でいうと何か病名がつくような障害があったのではないかと思う。
 
 彼女は自分が相手の気持ちが分からないこと、相手が自分の気持ちを分かってくれないこと、それを理解する知性はあって、しかしそれをどうやって人に相談していいのかが分からず、ひたすら苦しんでいた。

 だからこそ、アリアナを騙すことしか考えていない、口だけは達者なファビアン・スミスという男が目の前に現れた時に、何かおかしいと思いながらも彼女は吸い寄せられるように彼に執着していってしまったのだ――彼が自分のことを理解してくれるようなことを言うから――

 なぜなら、アリアナは幸せになりたかっただけだから。

 ハーブティーをいれると私は暖かいカップを持ちながら、アリアナの最後に書かれた日記に思いを寄せていた。すべてに疲れ果て、彼女は死に魅せられていた――それでも最後まで、父と兄への愛と感謝が日記には書かれていて――彼女は自分がしでかしたことの大きさも理解していて今後社交界での立場にも絶望し、孤独の中、たった一人でその結論に至ってしまったのが本当に切なく、可哀そうだった。

 社交界の立場なんてどうでもいいじゃないか。命より大切なものなどない。私が傍にいたら彼女に通じるまで何回でもそう言ったに違いない。でもアリアナは、敬愛する父や兄に迷惑をかけることも恐れ、死を選んだ――結果、別の時空の全くのあかの他人の私が呼び寄せられたのは彼女にとっても意外だったろうが。

 それにしても――と、私はアリアナとして目覚めてから初めて、自分がどうしてこの身体に宿ったのかを疑問に思った。何か選ばれる理由があったのだろうか、と。

 しかしその考えが形になる前に、コツン、とした小さい音がドア付近からして振り返ると、そこには軽装になったヴィクターが立っていた。
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