元書店員ですが、転生したら貴族令嬢になっていました!

28.① 友のことを見守っています! ※エリック視点

 侯爵から、自殺未遂をした義理の妹であるアリアナが一ヶ月ぶりに意識を取り戻し、ちょっと信じられない事態が起こって、大変困ったことになっているから家に戻ってきてくれと王宮に滞在している俺に連絡が来た時にはまさかこんなことになるとは思っていなかった。

 侯爵家に引き取られたその日から、自分のアリアナが苦手だった。お人形のように綺麗だけれどもまったく感情的にならない。言われたことはするけれど、それ以上は何もしない。会話をしていても、教科書通りの反応で、基本的に全部がどこかずれている。とてもじゃないが仲良くできる気がしなかった。シュタイン家の三兄弟妹の方がよっぽど話も馬も合って、自分の本当の兄弟のようだった。

 それでも侯爵夫人が存命だった頃はまだよかった。彼女はアリアナと俺をつなぐ橋のようなものだったからだ。しかし侯爵夫人は数年前あっけなくこの世を去ってしまい、侯爵も俺もそれはそれは悲しんだ。しかしアリアナは涙ひとつ流さずいつもと同じように過ごしていたのである。そんな義妹とどうやったら分かり合えるのか、誰かに教えてほしいくらいだった。

 侯爵夫人が亡くなったのと前後して王宮の騎士団への入団が決まり、同時に王太子直々の仕事を親友ヴィクターと受けるようになり、各地を転々とする生活が始まった。家には戻りたくない俺にはうってつけだった。そしてその仕事をしながら、家から遠く離れた場所で俺は酒と女を覚えた。

 このままアリアナが結婚して家を出るまでは、こうやって根無し草のように生きていようと思っていた矢先、彼女のスキャンダルが起き、睡眠薬を大量に飲んだ彼女はそれから目覚めることがなかった。

大変なスキャンダルではあったが社交界から一定の距離を置いている俺にはどこ吹く風だったし、アリアナが目覚めようがどうしようが関心もない。

 ただもちろん、娘も可愛がっていた侯爵の落胆ぶりはとてつもないものだった。彼は本当に良い人だ。なので最初の一報を聞いたときは、彼のためにアリアナの目が覚めたことを喜び、そして彼のために家に戻ろう、と思ったのだった。
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