元書店員ですが、転生したら貴族令嬢になっていました!

34.① 友が嫉妬しています!※エリック視点

「ついにご婚約を私に申し込みにいらっしゃったと父から聞きまして、いち早くお目にかかりに、こちらに参りましたの」

(何言ってんだ、あのバカ女!!!)

 マリアンヌのことは俺も『仕事』の関係でよく知っている。見た目は極上だが頭は空っぽで、自分が傅かれることになんの疑問も思っていない、典型的な甘やかされた貴族令嬢だ。
 マリアンヌの父も知っているが、仕事もできない、ただのごくつぶしの侯爵である。この親にしてこの子あり、だ。この前仕事で関わったときも、常に尊大な態度で首一枚でようやく侯爵という地位につながっているということも理解していないぼんくらだった。俺が内心苛々していると、するりと俺の手を離して、リンネは踵を返して走り去ってしまった。

(やば、追いかけないと見失う……!)

 と思ったが、それは俺の役目ではない。俺が彼より先に追いかけてしまうと、友が気分を害するのはよく分かってた。アリアナの体力ではそんなに遠くは逃げられないだろう。

「ヴィクトル様!」

案の定、友はほかの何も差し置いてリンネを追いかけようと走り出そうとしたが、まさか自分が置いていかれるなんて思ってもいないマリアンヌがヴィクターに追いすがった。

「失せろ、2度と俺の前に現れるな!」

 怒鳴りながら、力加減もせずにマリアンヌを振り払うと、ヴィクターは怒涛の勢いでリンネを追いかけて行った。

 ☆☆☆

 肺炎もようやく治り、ヴィクターとも元通りの関係に戻ったリンネが俺を見つけて笑顔になった。俺は二日ぶりに彼女のお見舞いに、彼女が滞在している公爵の別邸にやってきたのである。リンネは窓際にしつらえられたテラス席に座り、本を読んでいたようだ。

(今日も可愛いなぁ)

 リンネの肺炎が恢復するまでは、と王太子との謁見を延期してもらったとかでヴィクターとリンネはまだ王都に滞在していた。表向きはそうだが、俺はヴィクターが、リンネと同じ家で過ごせる時間をちょっとでも伸ばしたいだけだと思っている。

 雨に濡れそぼり、ぐったりしたリンネを抱えて戻ってきたヴィクターからは全ての感情がそぎ落ちていた。メイドと医者を呼んでくれ、と言われてすぐに手配したが、アリアナは体力がなかったのですぐに見つかるだろうと思っていたけれどこんなことならばあの時自分が追いかけるべきだった、と彼女の意識がない2日間、俺も相当後悔していた。
 
 それからマリアンヌが、ヴィクターの暴言についてそこここの貴族に尾ひれをつけて話しているという情報を得た。それを聞いてからは頭の中でどうやってマリアンヌとこんな娘を野放しにしている父に報復をするかを考え始めていた。

当のヴィクターは黙ってずっと彼女に寄り添い、どれだけ少しでも休むように言っても、まるで聞こうとしなかった。このままリンネの意識が戻らなかったら彼も死んでしまうのかもしれないと思ったほど憔悴しきっていた。そしてそれだけ愛する人を見つけることが出来た親友が羨ましくもあった。

< 55 / 68 >

この作品をシェア

pagetop