元書店員ですが、転生したら貴族令嬢になっていました!

34. ② 友が嫉妬しています!※エリック視点

「あのね、熱から恢復したらなんとね、ここの文字が読めるようになっていたの!」

 今日もリンネは最強に可愛い。元の世界では俺より年上らしいし、顔自体は大嫌いだった義妹のままなのだが、彼女が嬉しそうににっこりと笑うと、ついつられて笑ってしまうほど彼女には愛嬌がある。

「へぇ、それは良かったね」

「でしょ! 私、本が大好きだから、こちらの世界で本を一切読めないのは本当に辛かったから」

 これでもっとこちらの世界の知識が深められる、と喜んでいるようだ。
 どれだけ真面目なの、君は。
 それから彼女はテーブルの上に置いてあった紙にさらさらっと何かを書いてみせた。

「これ読める?」

「どれどれ……『アリアナ・シュワルツコフ』って書いてあるよね?」

 リンネがぱっと顔いっぱいに笑顔を浮かべた。

「これね、実は元の世界の言葉で書いてるの! 急にみんなが読めるようになったのよ、不思議なんだけど、でもめちゃくちゃ嬉しいの! これなら離れていても、エリックにお手紙が書けるわね」

 手紙書いてくれるという、その気持ちが嬉しい。明日からも頑張って生きようっていう気持ちになるもんだ。

 愛しい義妹が今日も可愛いです。

 ☆☆☆

「―――いたのか」

 リンネとそのまま楽しく午後のお茶を楽しみ、彼女に流行りの本の話などをしていると、外出から帰ってきた友がそれはそれは不機嫌そうに俺の顔を見た。

「いるけど?」

「帰れ、今から俺が凛音と過ごすから」

「ヴィクターったら……またそんな冗談言って! せっかくエリックが来てくれたんだから」

 意外に鈍いリンネがそうやって俺をかばって笑うもんだから、みるみるうちに友の眉間に皺が寄っていく。

(も、もうこんなやつだったなんて……)

 正直腹の中では爆笑ものであるがおそらくくすりとでも笑ったら一生ヴィクターに交流を断絶されそうなので、必死で我慢しておく。長年の友情も真実の愛の前には霞んでしまうらしい。もともと昔馴染みの俺の前では感情は分かりやすいところもあったが、リンネといる彼はもうただの子供としかいいようがない。愛は人を変えるとはよく言ったものである。

「やっと身体の調子が治ったから今日チーズケーキを焼いてもらったの。ヴィクターも食べない?」

「食べる」

 そうやって優しくリンネが言うので、ヴィクターの機嫌メーターが少しアップした。

「エリック、チーズケーキ好きでしょ?ここの料理長さんのは本当に美味しいから今日来るって聞いて準備しておいたのよ」

(あっ! リンネ! そんなことを言ったら)

「やっぱり帰れ、エリック」

 友に激しく嫉妬されています。

 だけど、目の前の二人はなんだかんだいってずっと視線を絡ませていて、甘い雰囲気を漂わせ続けている。

(どう考えてもこの状況、俺の方が可愛そうなんだけど…)

 運ばれてきたチーズケーキよりも二人の方が100倍甘かった。

 ☆☆☆

 数日後。

 王宮ですれ違ったヴィクターがため息をついて言った。

「凛音が本ばかり読んで俺に構ってくれない」

(遂に本にまで嫉妬!?)

 友が幸せそうで何よりです。

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