元書店員ですが、転生したら貴族令嬢になっていました!

36. 念願のデートをしています!

 無事王太子との謁見も終了し、それから数日はヴィクターは約束通り、王都の観光名所に連れて行ってくれた。王都には歴史的な建造物も多く、庶民が活発に行き交う市場は私の住んでいる街では見かけないような野菜や香辛料がたくさん売っていて見るだけで楽しかった。その中で、ターメリックとクミンっぽい香りがする香辛料を見つけたので大興奮して購入した。これでカレーが食べられるかもしれない。宝石やドレスではなく、香辛料を買って大喜びしている私を見て、ヴィクターは凛音らしいなと微笑んでいた。

 正直ドレスはアリアナのが履いて捨てるほどあるのでこれ以上いらないけど、ルームウェアになるようなゆったりトップスとパンツが売っていたので買ってもらった。今までティナさんに用意してもらったのは白一択だったのだが今回のは薄水色、薄グリーンのを2つセットで。こちらの世界では寒色系は男子が着るものらしいけど、構いません。

 今日のヴィクターは貴族らしい立派な装束ではなく、目立たないようにシンプルなシャツにパンツといったもの。それでも堂々たる体躯に整った顔立ちは街ゆく女性たちの視線を一心に集めている。王都にきて時間があればよくこうやって街を散策しているらしい。

「――凛音と出会ってからは王都に来るたびにお前をここに連れてきたい、ここに連れて行ったらお前はなんて言うだろう、とそんなことばかり考えていたから、今日は夢が叶って嬉しい」

 ヴィクターが若々しい笑みを浮かべてそう言った。

「ありがとう!私もすごく楽しい!」

 肺炎になってしまった後、私はあまりの体力のなさに自分でもこれはなんとかしないといけないと思い、ちょっとずつ体力づくりを始めた。貴族令嬢が表立って筋トレをするわけにはいかないので侯爵の別邸の中庭を早朝と夕方にウォーキングをしたり、誰もいない部屋でこっそり腕立て伏せや、覚えている限りのヨガのポーズをしたり。おかげで恢復して数週間、前より体力が若干ついてきたように思う。本屋で働いていたくらいの体力がつくのはまだ先だとは思うが、これからも鍛えすぎない程度に、鍛えたい。

 ヴィクターに連れられて、王都の真ん中を流れる運河のほとりにやってきた。
いくつものカヌーが浮かべられている。夕刻が近づき、赤い夕陽が運河の先に今沈まんとしている。

「―――綺麗」

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