夏の花火があがる頃
 お盆休みは、悠也の部屋でほとんどの時間を過ごしていた。

 まるで逃げるためだけの駆け込み寺だった。

 悠也は泣き腫らした目をしためぐみを見ても、何も言わなかった。

 柏木から連絡は来ていない。

 当たり前だ。

 愛想を尽かされてしまったのだから。

 離れた方がいいと思っていたはずなのに、いざ離れてみると後悔ばかりが募ってしまう。
 
 結局、慎吾の時と同じだ。

 相手を不安にさせて、失望させて、傷つけただけだ。

 いつになったら成長できるのだろう。

「なあ、めぐみ」

「……」

「暇だし、旅行に行かないか?」

 唐突に悠也が言った。まるで思い立ったような表情を浮かべていた。

「……うん」

「本当に?」

「うん。いいよ」

 貯金の残高を頭の中で計算しながら、めぐみは頷いた。

 東京から一旦離れてみるのも悪くないのかもしれない。

「行きたいところがあるんだけど」

「どこ?」

「北海道」

「え……」

「めぐみの生まれ故郷でしょ?俺行ってみたい。慎吾も連れて行こうぜ」

 慎吾の写真を出して、悠也はめぐみに「慎吾の旅費は俺が出す」と笑った。

 捨てたはずの故郷に戻るなど、考えたこともなかった。

「……」

「お前ら、ちゃんと話をしてないから、そんなことになってんだよ。場所変えて、少しリフレッシュしようぜ」
< 63 / 75 >

この作品をシェア

pagetop