夏の花火があがる頃
 自分の分は自分で出すと言っためぐみの旅費も、悠也が負担してくれたので、食費は全てめぐみが出すことになった。

 約束事として、真珠のネックレスをしてきて欲しいと悠也に言われ、めぐみは了承した。

 羽田空港に到着し、数年ぶりに飛行機に乗る。

 胸元に光る真珠のネックレスを見て、悠也は満足気に頷いた。

「めぐみ先輩。俺、回らないお寿司が食べたいです」

 行き道の本屋で購入した旅雑誌を指差しながら、とんでもない額の寿司屋をさして言う悠也をめぐみはあえて無視をした。

「……」

「おい。こら、無視すんな」

「高すぎる」

「ひどいよな、慎吾。めぐみ先輩、旅費を出してもらっておいて、食費ケチるつもりらしいぜ」

「人聞きの悪い事言わないでよ。ちゃんと美味しいお店連れてくもん」

「本当に?」

「本当だって。地元民なめないで」

 明るい声で話をしていると、不思議と昔に戻ったような感覚になった。

 慎吾と悠也と三人で一緒にいた。

 いつもは優しい慎吾も、悠也と一緒になるとめぐみの事をからかって遊んだ。

 めぐみが不貞腐れると、慎吾は慌てて謝ってきた。

 それを悠也が「尻に敷かれてんな」と更に二人をからかった。

 ただ懐かしい。

 それをどちらも思ったが、どちらも口には出さなかった。

「楽しみだ」

「うん」

 写真の中の慎吾は大学生だ。

 八年前に流行った髪型に、八年前に流行った服装。

 時の流れが止まっているということは、そういうことだ。

「めぐみは北海道のどこに住んでたの?」

「野幌ってところ」

「札幌じゃなくて?」

「ううん。札幌からも近いけど」

「そうなんだ」

「うん」

 間もなく当便は、新千歳空港に到着します。と機内アナウンスが流れた。

 シートベルト着用サインが、点灯した。

 東京の羽田空港から、北海道にある新千歳空港まで一時間ちょっとだ。

「到着したら、どうすればいい?」

「電車に乗って、一旦札幌まで出ようか」

「さすが、地元民」

 悠也は明るい口調で、めぐみに言った。

 悠也の気の使い方が、有難かった。

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