夏の花火があがる頃
第14話 海辺の街
 高田馬場駅から降りると、酔っ払った私大生達がどんちゃん騒ぎをしている。

 夜中に騒ぐ、大体の若者はその私大生達で埋め尽くされている。

 少しばかりの現実への不安と戦いながらも、自分の未来を何の疑いもなく生きている。

 突然の呼び出しにも関わらず、翔は快く応じてくれた。

「悪いな」

「いいや、悠也のお願いくらい聞くよ。昔、ノート写させてもらったし」

「何年前の話をしてるんだよ。中学生の頃の話だろ」

「俺、意外と義理堅いのよ」

 あそこの焼き鳥屋でいいか?と翔が尋ねるので、悠也は大丈夫だと頷いた。

 食べ物も、飲み物も何でもよかった。

 店の中に入ると、カウンターしか空きがなかった。

 なく、そこに座り、おしぼりで手を拭く。

 が運ばれてきて、「生二つ」と翔が頼んだ。

「悠也は何食う?」

「何でも」

「じゃあ、レバ刺しと、ねぎまと、鶏モモと、めんどくさいからおまかせセットでいい?」

「いい」

 何でもと答えた悠也に本当に遠慮なしに翔は、自分の好きなものを店員に頼んだ。

「で、何があった?」

 注文も終えて、一息ついたところで翔は悠也に尋ねた。

 悠也は、鞄の中から慎吾の日記を取り出し、翔に渡した。

 慎吾の母から受け取ったこと、めぐみが慎吾の死から乗り越えられていないこと。

 彼女をどうにかしたいこと。

 翔は悠也の言葉を頷きながら聞き、一言「難しいよ、悠也」と答えた。

「……そうなのか」

「人の心はデリケートだから、トラウマを抱えた人間の心を、そんな簡単に戻しましょうと言って戻るもんじゃない。俺は、医者だけど精神科医じゃないからそっちの方は専門外だけどさ」

「……どうすれば」

「誰かが、辛抱して寄り添うしかないよな」

「……」

「その人、家族はいないの?」
< 65 / 75 >

この作品をシェア

pagetop