私の好きな彼は私の親友が好きで

朝、心地よい温もりと、安らかな気持ちで、覚醒し始める思考。

この、なんとも言えない温もりは何だろう?

首筋に微かにかかる、心地よい感触・・の正体が薫さんの唇だと
気が付くのにかなりの時間を要し、慄き、固まって動けなくなった。
少しでも動いたら、グッスリ寝ている薫さんを起こしそうだし、
かと言って、この状態で居たら、私の心臓が持たなさそうで・・
しかも、薫さんの腕が私をバックハグしていて全く
身動きが取れない状態。

どうして?昨日は手を繋いで寝たはずなのに・・
なんで、この状況?
固まった状態で、思考がフル回転する。
少し、身体をずらしてと、思い足をずらしたら
薫さんの脚が私の脚を絡め、余計身動きが取れなくなった。

この人は、こうやって誰かを抱きしめて寝るのが
当たり前なのだろうか?
あまりにも、慣れたバックハグにざわつく心。

そして、なによりもピッタリとお互いの身体が合わさる
心地よさ。まるで機械の部品がカチリとハマったような
一体感に、困惑していた。

(離れたくない)そう、このバックハグから抜け出そうと
考えたのは、これを望んでいないと思わせようとする狡い私だ。
私は、緊張し、固まりながらバックハグを受け入れていた。

すると、首元から「ククク」とくぐもった笑い声が聞こえる。
「あ、薫さん 狸寝入りですか!」
「ゴメン。美月ちゃんの行動が余りにも可愛くて・・」
「何処から起きていたんですか?」
「どこからだろうね?」

それでも、体勢は変わらず抱きしめられている。

「美月ちゃんとくっ付いているのが心地良いのは俺だけ?」
「わたしもです」と小さく呟く。
「不思議だね。凸と凹が合わさったみたいにフィットする。」
『私も、心地良いです。』と口に出来たらどんなに可愛げがあるのに。
それなのに私の口から出て来たのは
「薫さん、誰にでも言っているんですか?」だった。

口にした途端(しまった)と思ったが、出た言葉は取り消せない。

そんな失礼な言葉を発したのに彼は、その言葉で身体を固くした私の
背中を撫でながら

「美月ちゃんが思っているような、甘い言葉を囁く生き方なんて
した事ないよ。」
「でも、今の薫さんの言葉はキュンです。」
「キュン?」
「そうです。胸がキュンとする事です。」
「大体のニュアンスは解るけれど、可愛い表現だね。」
そう言いながら彼は私にフードを被せ、
「こっち向いて・・」

寝起きスッピン・・振り向いたら至近距離になる・・
振り向けるわけが無い・・

「ムリです。振り向いたら薫さんが近す 」

その言葉が終わらないうちに、グルんと薫さんの腕によって
向き合う形にされてしまう。

「ひゃーーーー」

「そんな大きな声を出したら、あっちから 2人が飛んできて
乱入されるよ。」
扉の方を見ると、ママの言った通りに扉は開いていた。

こんな格好で寝ているのが見られたら、今日にも入籍になるに決まってる。

1人ワチャワチャ慌てているのに、フードを被った私を見て
「ウサギさん、可愛い。」そう言いながら私の頭を自分の胸に
引き寄せる。その時に気が付く・・裸だ・・
本当に薫さん、私 死んでしまいます。

「ドキドキしてる」
「あ、あ当たり前です!」
「俺の心臓も触ってみて・・」

そっと 何も着ていない胸に手を伸ばす

「私と同じ。」
「そう、一緒だよ。」

私だけじゃないんだ・・大人でも、私にでもドキドキしてくれるんだ。

「嬉しい」聞こえるか聞こえない位小さな声で呟いた。
その時、
「きゃ~~~青春!!!!!!」
邪魔?救世主?2人が扉の前に立っている。

「へんな声が聴こえたから、何事かと思って見に来たのに・・」
「普通に、イチャイチャしていただけなのね。つまんない!」
「薫君、開けて寝てと言ったけれど、守らなくても良かったのに。
ダメは良いの裏返しよ!」

そう言って母は扉を閉めて去った。

はぁ~ なんだかな~ この2人は・・

そう思って、薫さんの反応が知りたくて盗み見た。
彼の瞳は、この状況に満足している表情をしていた。
「薫さん、もしかして狙い通りですか?」
「さぁ?どうかな?でも、年内には入籍出来そうだね。」と
ニッコリとキラースマイルを浮かべた・・策士だ!
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