私の好きな彼は私の親友が好きで

泣き疲れ、グッタリした私を、薫さんはお姫様抱っこして
寝室のベッドまで運んでくれる。
寝室に入った瞬間に、鼻孔を薫さんの匂いがくすぐる。
あ~今朝、私はこの匂いの中で、幸せだった事を、脳が思い出した。
なのに、何で私はこんなにも、泣き疲れているのだろう。
この香りを纏う男性(ひと)に、抱き抱えられているのに。

「俺が1人で寝る為のベッドだから、ホテルのより狭くてゴメンね。」

ダブルベッドに私を優しく置きながら彼は、私が気にしない様に
(1人で寝るベッド)を強調した。
あ~ この人は私が気にするポイントをフォローしてくれる。
他の男性(ひと)が理由で泣く私に・・

「美月ちゃんは 俺の右側ね」とニヤリとしながら、
薫さんも横にスルリと自然体で潜り込み、今朝と同じように
私をバックハグした。「何も考えないで、寝なさい。」
そう言いながら彼は、私の手の甲を何度も、何度も擦る。
泣き疲れたのと、彼の吐息と、香り、手から伝わる優しさに
瞼が重くなってくる。

美月は薫の腕の中で眠りに落ちる直前に
「何年も、美月を腕に抱くことを想って生きて来た。
誰にも渡すつもりは無いよ。」
と聴こえたような気がした。

薫は、美月ちゃんをお風呂に入れてから、
美月ちゃんの母、美穂さんに連絡した。

ホテルに迎えに行く途中で、一度連絡をしたが、
状況を確認していなかったので、詳しくは後でと言って電話を
切ってから1時間は経っている。
大事な一人娘だから、ヤキモキしていたのだろう、ワンコールで
繋がった事で、美穂さんの心配が伝わる。

「美月ちゃんを今、うちに連れてきました。
もう、今日は遅いので、このまま泊める事に・・
はい。 いえ、 又、ご連絡します。」
電話の向こうから
「薫君、ご迷惑をかけてゴメンなさいね。
本来は天真爛漫な子なの。時間がたっているから大丈夫だと
思っていたのに・・」

その言葉に、俺はやはり、美穂さんと美月ちゃんは親子だと思った。
美月ちゃんも、言葉の機微を敏感に感じ取り、美穂さんは天然だけれど、
我が子の事を、キチンと見ている。
彼女が天真爛漫なのは、自分だって知っている。
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