片翼を君にあげる①

「……ちなみに。
もしも、私の国との繋がりを確かなものにしたいのならば、ヴィンセント殿は婚姻以外に何かお考えがあるのですかな?」

私がなかなか返答出来ずにいると、ヴィンセント父様に視線を移したサリウス様が尋ねた。

婚姻に代わる、両家と両国を結ぶ絆になるものーー。

確かに、婚姻を初めから断るつもりだったのならば、こう言った場ではそれに代わる条件や交渉の材料が必要となる。
しかも今回の場合、こちら側が一度向こうの条件を蹴ってしまった以上。より、向こうにとって良い事を提示しなくてはならない。

「まさか、何もない、などとは申しますまい。
……如何ですか?ヴィンセント殿」

その言葉の直後。
サリウス様の瞳から、優しさがフッと消えたのが分かった。

状況は一気に深刻なものに変わる。
返答次第では、自分が想像している以上に大変な事態になってしまう恐れがあった。
大国で、武装も武術も、戦力が遥かに優るドルゴアの機嫌を損ねてしまえばこの国の未来は暗い闇に包まれてしまう。

私一人が我慢すれば、全て丸く収まるのではないかーー?

あまりの窮地に、私の中にそんな考えが生まれた。

そうすれば家も国も護れて、ツバサもきっと……。ううん、彼ならば私がいなくても幸せになれる。
優しくて心美しい彼を、愛する女性はたくさん居るであろう。
この先きっと、私以上に、ツバサを……、……。

ーーっ、嫌。
そんなの、絶対に嫌だッ……!!
私以上に彼を愛する女性(ひと)なんていない!!

葛藤の中に灯る強い想い。
しかし、こちらの状況が不利なのは、このままでは変わらない。

一体どうすればーー?

そう思った瞬間。
この張り詰めた空気を和ませるように、ヴィンセント父様が声をだして「はははっ」と笑った。そして……。

「それは勿論でございます、サリウス王子。
無論、婚姻に代わる条件をご用意しております」

ヴィンセント父様はハッキリと、答えた。
その発言に驚いた私は、ただただヴィンセント父様を見守る事しか出来ない。

「……ほぅ、面白い。聞かせて頂きましょうか?」

「はい。
……しかし。この件は私よりも、この者の口からお話する事をお許し願いたい」

何も出来ない事をもどかしく思っていると、そう言ったヴィンセント父様が「入りなさい」と誰かに声を掛けた。
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