片翼を君にあげる①

「はい。お恥ずかしながら、私は武道も武術も、誇れるような実績はございません。
けれど、サリウス様はご存知の筈です。側にいらっしゃるミライさんを雇われて、夢の配達人の強さが、力だけではない事を」

「……なるほど。
確かにミライ殿は優秀だ。力だけではなく、頭の良さ、気遣い、その他諸々……。夢の配達人、如何なものかと雇ってみたが、正直想像以上であった」

チラッと見ながらサリウス様がそう声を掛けると、ミライさんは「勿体無いお言葉でございます」と頭を下げる。
敵なのは厄介だけど、この時ばかりはミライさんが雇われていた事に感謝した。お陰でサリウス様は、夢の配達人に好感と興味を持っている。

だからこそ乗ってくる筈だ。
この先の話を、必ず聞いてくる。

「では、君は何を見せてくれるんだ?」

ーー来た。

「レノアーノ様の婚姻なしに我が国との友好を得る為に、君が私としたい勝負とは……何だい?」

相手が思惑通りに尋ねて来てくれたが、まだまだ安堵するのは早い。
今相手は目の前の餌が食らい付くに値する代物かを見極めている。本番は、ここからだ。

「1年以内に、白金バッジの夢の配達人になる」

俺は、あえて笑って口を開いた。
自信に溢れた、勝負を楽しんでいる、と相手に見せるように。

「私は1年以内に、夢の配達人の最高位である白金バッジをこの手にして見せます。
それを成し得た暁には、アッシュトゥーナ家とは言わず、この国の繁栄と平和の為にドルゴアのお力を貸して頂けませんか?」

俺の言葉に、サリウス王子から笑みが消えた。その表情を見て、"さすが"と思わずにはいられない。
この人は気付いた、それがどれ程に困難な事か……。

「……1年以内に、ね。
私は実際の夢の配達人の世界を知らない。なので、過去の情報からの知識で申し訳ないが、それは普通で考えたら(ゼロ)に近い確率じゃないかね?」

「はい。
しかし、一つだけ、方法がございます」

「ーー下克上(げこくじょう)、か」

「おっしゃる通りです」

下克上ーー。
それは本来、最高責任者(マスター)が毎月の仕事達成率を集計して決める順位(ランク)付けの他に、唯一夢の配達人が更に上を目指せる制度。

サリウス様が下克上を知っていてくれて有り難い。それはより、俺が成し得ようとしている事が困難であるかを示してくれる。
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