独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
俺は初子に近づいた。唇と唇の距離は数センチ。

「初子は知るべきだ。キスを。俺の気持ちを」

間近く見つめ合う。やがて、初子が観念したように頷いた。俺は顔を右に傾け、唇に触れるだけのキスをした。
すぐに唇を離したのは、初子が相変わらずかちこちに固まっていたからだ。キスを終えても呆然としている初子。赤くなった頬も、照れたようにさまよう視線もけして俺を拒否しているわけではない。

「連さん、……連さんのいろんな表情、私も見たいと思っています」

聞こえてきた初子の声はか細く震えていた。キスの緊張感が残っている。

「なるべく自然な表情でいられるよう、尽力いたします」
「尽力せんでいい。堅苦しい」

俺は苦笑いした。

「初子を独占したい。それは夫である俺の特権だ」

期間限定だと彼女が思うならそれでもいい。俺は俺で初子を大事にする。甘やかすし、独占する。
こんな気持ちは初めてだ。女性はみんな、綺麗でいい香りがして、憩いのひとときをもたらしてくれる存在だと思っていた。しかし、初子に抱く気持ちはまるで違う。生々しい執着に息が詰まりそうな独占欲。
初子が靡かないから、躍起になっているだけなのだろうか。
どちらにしろ、初子に出会わなければ感じることがなかった感情ばかり。俺自身が戸惑っている。初子は過去の女性たちとは違う。
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