契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 波乱の展開で幕を開けたと思ったふたりの生活は意外にも、穏やかに過ぎた。
 あの日、まるで下心があるかのように振る舞って渚を混乱させた和臣は、それ以降はまた紳士の顔に戻っている。
 それでもしばらくは彼をどこか警戒していた渚だけれど、そんな彼を見るうちにようやくあれは和臣の冗談だったのだ、と理解した。
 親切にされてすっかり忘れていたけれど、芸能人とも付き合いのある和臣のこと、あのくらいの冗談は普通なのだろうと。
 女子校育ちで男性に対する免疫がほとんどない渚には刺激が強すぎる冗談ではある、もう二度と言わないでほしいと思うけれど、親切にしてもらっている手前、それはさすがに言えなかった。

「なにか作ってるのか?」

 さして興味がある風でもなくテレビを見ていた和臣が渚の方を振り返る。
 ぼんやりと和臣の横顔を眺めていた渚はハッとして、少し慌てて手元の袋をガサガサと開けた。

「ご、午前中に姉のところで、タコをもらってきたんです。お義兄さんがたくさん釣ってきたとかで」
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