契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 いつものように食べられる状態にしてほしいとの協力要請である。でも行ってみれば、姉自身はネイルサロンの予約があるとのことで家を留守にするという。だからこうやって持ち帰ってきたのだ。

「へぇ、タコを?」

 和臣は興味を惹かれたように呟いて、キッチンの方へやってくる。そして渚のすぐ後ろから手元を覗き込んだ。

「大漁だな」

 すぐ近くから聞こえる低い声に、渚の胸がドキンと跳ねて、なぜか頬まで熱くなる。その頬の火照りを振り切るように渚は小さく首を振ると、次々とタコを袋から出していった。

「タ、タコって生のままはすごくグロテスクですよね。しかも茹でる前に体についているこのヌメヌメを取らないとダメなんです。すっごく気持ち悪いでしょう?」

 そう言いながら、渚は彼が気持ち悪がって、リビングに戻ってくれたらいいのになと思った。
 そうでないとなんだかそわそわしてタコの調理に集中できない。
 ところがその渚の期待を裏切るように和臣の方はますます興味を惹かれたようにカウンターに手をついて、渚の手元をしげしげと眺めている。
 渚は仕方なくドキドキする心臓を持て余しながら、そのタコにあらかじめ用意しておいた大量の塩を振りかけた。
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