契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
『適当な物ばかりでごめんなさい』

と、彼女は言うが、たとえ簡単なものだったとしても、よく考えられているという印象だった。
 週末は和臣が好きそうなボリュームのあるものを。週の半ば激務が続いている時は食べやすい胃に優しいものを。
 渚は和臣のスケジュールを考えて、その時その時に最適だと思うメニューを選んでくれている。
 食を提供する者の心得を和臣はまったく知らないが、それでも彼女ならばカタヤマ弁当を復活させられるかもしれないと思うようになっていた。
 そしておそらくはそれに、父親である龍太郎も気が付いているはずだと和臣は思った。
 龍太郎は、裁判官を辞めてからは弁護士活動に打ち込む傍ら、後進の育成にも力を入れている。
 事件を起こした少年たちの社会復帰を支援するNPO法人にも名を連ねているはずだ。
 若者の将来性に関しては誰よりも敏感なはず。ましてや結婚をする前は毎日渚のご飯を食べていたその彼が、娘の可能性に気が付いていないはずはない。
 和臣は人差し指でデスクをトントンと叩いて考え込んだ。
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