契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 おそらくは娘がかわいいあまりに、過保護になっているだけなのだ。
 誰かが間に入って、冷静に話をすれば解決の糸口は見えるはず。少なくともあの父娘が互いに思い合っているのは確かなのだから。
 そしてその調整役として最適なのは、自分だということに和臣は気が付いている。
 和臣は、龍太郎からの信頼は誰よりも深いと自負しているし、今は渚のすぐそばにいて、彼女の可能性を見定められる状況にある。
 初めの見合いの時に、"先生を説得するなら協力する"と言ったその約束をそろそろ実行すべきなのかもしれない。
 だが……。
 和臣は夏の日差しが照りつける窓の外の街を眺めた。
 和臣が説得に成功して龍太郎が渚の専門学校通いを認めたら、渚との結婚生活は終わりを迎えるのだ。
 その役割を終えて。 
 渚はきっとそれを心の底から喜んで、あっさりと家を出ていくだろう。
 その後ろ姿が脳裏に浮かんで、和臣の胸がキリリと痛む。
 約束の期間より早くボランティアから解放されると、喜ぶ気持ちにはなれなかった。
 和臣は目元に手を当てて、ため息をついた。

 ……もう少し、もう少しだけ様子を見よう。

 どちらにしても夏の帰省が終わるまでは、別れるわけにはいかないのだ。
 渚は夏の帰省をとても楽しみにしている。
 弁当作りとは切っても切れない関係の、農作物がどのように作られているかを知ることは、今後の彼女のためになる。
 だから、夏の帰省が終わるまでは……。
 和臣はそう自分に言い訳をして、説得の件を、頭から追い出した。

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