契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 それをどこかぼんやりと見つめながら、渚は突如得体の知れない喉の渇きを覚えた。そしてなぜか、この渇きは目の前の彼の唇に触れてもらうことでしか癒されないと感じていた。
 いつもよりずっと近くにある和臣の瞳を見つめながら、渚はこくりと喉を鳴らす。
 和臣の唇が、渚の想いに応えるようにゆっくりと降りてくる。
 渚は焦がれるようにそれを見つめながら、ただその時を待った。
 でもあと少し、本当にあとわずかのところまできて、和臣はぴたりと動きを止める。そして、目を閉じて小さく息を吐くと、ゆっくりと両手を解いた。

「髪が」

 和臣が掠れた声で呟いた。
 そして小さく咳払いをして、渚を見た。

「髪が、まだ濡れてる。ちゃんと乾かさないと、本当に風邪を引くぞ」

 もういつもの彼だった。
 和臣がまだどこかぼんやりしたままの渚の首のタオルをとって、やや乱暴にぐしゃぐしゃと髪を拭いた。

「きゃっ! も、もう!」
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