契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 とにかく彼女と一緒にいる時は、いつも通りの冷静で論理的な自分がまともではなくなってしまう。ありえない考えに支配されてありえないことをしてしまいそうになるのだ。
 そもそも始まりからして、やはりどこかおかしかった。
 職業柄、またテレビに出ている関係上、リスクとスキャンダルには人一倍敏感なはずの自分が、たった一度腰を落ち着けて話をしただけで、簡単に結婚を決めてしまった。しかも普通ではありえない無茶苦茶な結婚を。
 百歩譲ってこれが彼女の夢を叶えるためのボランティアなのだとしても、だったら尚更、紳士的に粛々とその役割を全うしなければならないのだ。万が一にでもこの結婚の真相が龍太郎や世間にバレたりしたら、ふたりともただでは済まないのだから。
 それなのに時々、自分でもよくわからない衝動に駆られて、彼女に触れてしまう。まるで彼女の中に自分の存在を刻みつけるかのようなことをしてしまうのだ。
 和臣は目を閉じて、ため息をつく。
 自分をそうさせるものの正体に、和臣はもう気が付いている。
 自分が彼女に強く惹かれていることは、ごまかしようのない事実だった。
 そしてそれはもしかしたら、あの見合いの席で彼女の笑顔を見たその瞬間から、始まっていたのかもしれない。
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