契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 まるで本当の夫婦のように一緒に行動をして、語り合い、笑い合い、ふざけ合った。
 移動も食事も寝る時でさえ、同じ時間を共有したのだ。
 それはもしかしたら、和臣に対する彼女なりの気遣いだったのかもしれない。
 万が一にでも、ふたりが本当の夫婦ではないなどと和臣の家族に気付かれないように、意識してそれらしく振る舞ってくれていたのかもしれない。
 だがそれでも、和臣の目に渚は眩しく映った。
 東京育ちのお嬢様のくせに、日焼けや汗まみれになるのをものともせずに、父や兄のやることに果敢にチャレンジし、日が暮れるまでやめようとしなかった。
 そして和臣にも、いつもとは違う弾けるような笑顔を見せた。

『和臣さん、どうしてお家を継がなかったんですか?』

と少し不満そうに言われた時は、思わず言葉を失った。
 なんで弁護士なんかになったんだとでも言いたげな眼差しに、じゃあ弁護士を辞めて農家を継いだら君はこのまま結婚生活を続けるのかと問いかけてしまいそうになって、今度はそんな自分に愕然とした。
 だが考えてみればこんなことは初めてではない。いやそれどころか、もう何度も同じようなことがあったのは確かだった。
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