契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 きっと彼は気がついていたんだ。
 渚と父の互いに対する思いが、少しだけかけちがっていることに。
 気がついていたからこそ、それを元に戻す手伝いをしてくれた。
 どこまでも優しい人。
 その人を愛するこの気持ちを今はただ誇らしいと思う。
 たとえそれが報わない想いでも、人を愛するということを渚にまた思い出せてくれた、それだけでもう十分すぎるほどありがたい。

「雪だ」

 誰かの声が耳に入り夜空を見上げると、都会の街に初雪が、ちらほらと舞い降りている。
 渚は白い息を吐いて走り続けた。
 この気持ちを伝えたら、彼はどう思うだろうか。
 あなたのことを、好きになってしまいましたと告げたなら、迷惑だと思われてしまうだろうか。

 ううん、きっと大丈夫。

 彼はきっとこの気持ちを受け止めてくれるはず。
 少しは困惑するかもしれない。
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