契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
週刊誌
 クリスマスを迎える準備をすっかり整えた街、キラキラと輝く街路樹の下を、渚は息を切らして走っている。道ゆく人が何事かと振り返るのも構わなかった。
 どきどきと脈打つ胸は、和臣のことでいっぱいだった。

 和臣さん、和臣さん、和臣さん‼︎

 伝えたい思いと、知ってほしいこと、それからたくさんの彼との出来事が頭の中を駆け巡る。
 一歩一歩、足を踏み出すたびに彼との別れが近づいている。それはわかっているけれど、それでも今すぐに彼に会いたかった。
 初めは、渚の夢を応援すると言ってくれた彼に、ただ無邪気に感謝した。こんなに親切にしてもらえるなんて、自分は幸運だと喜んで。
 でもすぐに素顔の彼に胸を高鳴らせるようになってしまって、それが不安でたまらなかった。
 絶対に報われないとわかっている恋心が、どんどん大きくなるのを止められなくて怖かった。
 それでも今は、この気持ちをただ誇らしいと思う。
 瀬名和臣。
 彼はたくさんの人の希望となるべき人。
 祖母と母を失って、止まっていた渚の時間を、家族の時間を、また動かしてくれた。
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