契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 もちろんこの手続きには期限はないから、それ自体はよくあることだ。もっと長い間放置されているのも何度も見たことがある。
 だが普段の龍太郎を知る和臣からしたら、少し違和感を覚える状態だった。龍太郎は几帳面なタチで、やる必要があることを放置したりはしない。二年以上経ってもそのままにしてあるということは、渚が言った通り人に譲る予定はないということか。
 もちろん譲りたくても買い手がつかないという場合もあるだろう。確かに店の建物自体は相当古いようだから。だとしても……。

「立地は悪くないはずなんだが」

 和臣がそう呟いた時、コンコンと部屋のドアがノックされた。 

「はい」

 こんな時間に誰だろうと、和臣は訝しみながら返事をする。事務室の誰かなら内線を鳴らすだろうし、他の弁護士だろうか。

「瀬名くん、私だ。ちょっといいか」

 少ししわがれた低い声。
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