契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 和臣は彼女のメッセージに丁寧に断りの返事を送る。"また今度"といったような社交辞令の言葉を添えることもしなかった。
 再び携帯をデスクに置いて、和臣はやれやれと心の中で呟いた。

 これで俺は、少なくとも向こう一年半はテレビ局で出会う華やかな女性たちと遊ぶこともできなくなったわけだ。

 数日前まではまともに話をしたこともなかった、佐々木渚のために。

 なにをしてるんだ、俺は。

 だが、その黒い瞳の中に確かに見た意志の強い光を思い出して、和臣は思わず笑みを漏らした。

『あの子は頑固なところがある。君を困らせることもあるかもしれん』

という龍太郎の言葉を思い出して。
 さすがは父親だ、娘のことをよくわかっている。
 たった小一時間話をしただけで、和臣は"しない"と決めていた結婚をするはめになってしまったのだ。まだ結婚生活も始まっていないというのに、早くも自分は彼女に振り回されているのかもしれない。
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