おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~
ローランの問いに答えられずに涙してしまい気まずくはあったものの、ここで彼が立ち去りジルベールと2人にされてしまう方がもっと困ってしまう。
リサは焦って自分もこの場を立ち去ろうとしたが、その行動を読んでいたであろうジルベールに簡単に阻まれてしまう。
「何があった?」
先程ローランに向けた同じ言葉が、幾分優しげな声音でリサに届けられる。しかしリサはその問いに答えない。
何があったわけでもない。
ただローランにシルヴィアとしてジルベールをどう思うかと聞かれただけ。それに対し何も言えず、ただジルベールを想って泣いてしまっただけ。
そんなこと、目の前の彼に言えるはずがなかった。
「……なにも」
「リサ」
ゆっくりと近付いてくるジルベール。リサは俯いたままその場を動くことが出来なかった。
昨夜は闇が味方してくれたが、太陽が真上にある明るい状態で踵を返し走り出したところで、ものの数秒で捕まってしまうことは火を見るよりも明らかだった。
それに今自分はシルヴィアのドレスを身に纏っている。いくら城のみんなもジルベールも入れ替わりをわかっているとはいえ、ローランをはじめラヴァンディエからやってきた騎士達は自分をシルヴィアだと思っているのだ。粗相は出来ない。
どうやってこの場を切り抜けようかと寝不足の頭で考えていると、あっという間に目の前まで来たジルベールが人差し指の背でリサの目元を撫でる。