おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~
自分の事に精一杯のリサは気が付かないが、ここにいる誰一人、リサの言動を急かす者はいない。
彼女が今混乱を極めていて、必死に自分で答えを見つけようとしているのを、ただじっと待ってくれている。
リサは途方に暮れそうになる意識の中、必死に考えを巡らせた。
「わ、わたし…。私は……」
どうしても言葉が出ない。
ジルベールがシルヴィアではなく自分の名前を呼んでくれた。
息が止まるほど嬉しいと思っているのに、素直にそれを表現することが憚られる。
感情のまま愛しい人の胸に飛び込みたいという衝動を、リサは必死に理性で押し殺していた。
自分の想いをこの場で言葉にしてしまえば、取り返しがつかないことになるのではないか。
自分が幸せな気持ちになることで、誰かが悲しい思いをするのではないか。
もしその誰かが大恩ある公爵やシルヴィアだとしたら。そう考えると、リサは迂闊に言葉を発することも喜びを表現することも出来ないでいた。