おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~

「驚き過ぎてしまって、まず何からびっくりしたらいいのか…」

リサは自分の胸に手を当ててゆっくりと深呼吸をする。
手に伝わる鼓動はエプロンワンピース越しにも大きく感じられ、全力疾走した後のように早い。


ジルベールの従者だと思っていたローランは、彼の3つ年上の兄。つまりラヴァンディエ王国の第一王子だった。

ローランは自身が15歳の頃に訪れたこのレスピナード城で、バラ園で無邪気に土仕事を手伝うドレス姿のシルヴィアを見て一目惚れしたという。

『大広間のテラスから見たまだ9歳のシルヴィアは、まさに天使そのものだったよ』

先程ローランが語ってくれたのは、シルヴィアがリサと共にバラ園で庭師の仕事を手伝っていた姿を、会議の休憩中に盗み見ていたという昔話。

ある日レスピナード公爵の1人娘、シルヴィアの花婿候補に弟が選出されたと聞き、記憶の彼方に押しやっていた過去の初恋が鮮明に蘇ってきた。
もう1度シルヴィアに会いたい。話をしてみたい。その一心だった。

ローランは弟のジルベールがこの縁談を断るつもりでいたのは知っていた。もしもシルヴィアが見た目に違わず素晴らしい女性だったなら、なんとか自分が彼女の夫になれないだろうか。

レスピナード公爵が探しているのは、公国を娘と共に継ぐ婿入り出来る男。第一王子であるローランに彼女との縁談は来ない。

< 123 / 147 >

この作品をシェア

pagetop