おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~

「1人が不安なのは当然だ。だから、その…」

言い辛そうに1度言葉を区切り、至近距離で涙に濡れた黒目がちなリサの瞳をじっと見つめる。


「俺と一緒に来るか?」


唐突に言われた言葉に驚いたが、意味を理解した瞬間、堪えられない喜びが身体中を走った。

なんて都合の良い夢だろう。
誰かがそう言ってくれるのを、現実の自分は望んでいたのかもしれない。

実際に誰かについていくなんて出来ないのは分かっている。そんな相手がいないことも。

だからこそ、例え夢だとしてもジルベールに誘われたことが嬉しくてまた涙が滲む。

「そうですね。そう、出来たらいいのに…」

また泣き顔を晒すまいと俯く。無理やり口角を上げてみたが、あまり効果はなさそうだった。

きっと次に目覚めた時、1人で荷造りの続きをするんだろう。
もしかしたら、抱きしめている絵本は涙で濡れているかもしれない。

「この国に滞在するのは今日を含めて6日間。目的が済み次第、国に帰る」

頬に触れていた手が離れ、ジルベールがベンチから立ち上がった。長身から見下ろす真剣な眼差しが、涙で滲んだ視界の先で揺れる。


「俺と一緒に来い」


出会ったばかりの名前しか知らない男性。
それなのに抗えないほど惹かれてしまっている。こんなこと現実にはありえないとわかってる。

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