おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~
「えっ…、でも…」
「大丈夫、そんなに長い時間ではない。……嫌か?」
罰だと言っていたのに、ジルベールはリサの意向を確認してくれる。そのことがリサにジルベールが本当は王子ではないことを再認識させた。
絵本の中でハッピーエンドになるのは姫と王子だけではない。
彼らに付き合って入れ替わりをしていたメイドと従者も、それぞれ想い合って幸せになるのだ。
絵本のとおりにいくとなれば、リサの相手は目の前にいるこのジルベールということになる。その考えに辿り着くと恥ずかしくて仕方なかった。
しかし、それは決して嫌ではない。昨夜このバラ園で『一緒に来い』と言ってくれた彼に惹かれていた。
リサは俯いて彼の目を見られないままゆっくりと首を横にふり、嫌ではないと言外に告げた。
行ってみたい。彼と2人で出掛けてみたい。そんな心の底から湧き上がる欲望に抗うことが出来なかった。
「よし。では明日の朝、皆が動き出す前に厩舎の裏で落ち合おう」
「はい」
楽しみだな、と素直にリサは思った。
ジルベールは自分に嘘をついた罰だと言っていたが、そうだとすればなんという甘い咎めだろう。
「こんなに綺麗な髪を隠してしまうのも罪だな」
リサの黒髪を一房掬い、その毛先を口元に持っていくジルベール。