おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~
つい目を奪われてしまい、手にとってまじまじとその指輪を見つめる。デザインも好みだが、何より彼を思い起こさせる赤い石を身につけるのもいいかもしれないと恋する乙女な思考に囚われる。
ジルベールの存在を一瞬失念してしまっていたリサは、「気に入ったのか?」と急に声を掛けられ飛び上がるほど驚いた。
「い、いえ!大丈夫です、行きましょう」
まさか女性もののアクセサリー選びにジルベールを付き合わせるわけにいかない。すぐに手に持っていた指輪を元の位置に戻した。
それからしばらくあちこちを見て歩き回ったリサとジルベールは朝食を取ろうと、すぐに食べられるパン屋や簡単な食事を提供する店が多く並ぶ通りへ向かった。
「リサは何が食べたい?」
「え?あ、私は何でも大丈夫です。…ジルは?」
真っ先に自分の意見を主張するのが苦手なリサは、同じ質問をジルベールに返した。彼の希望のものを食べに行きたいという思いもあった。
すると『ボヌール』という記憶の彼方でリサのお気に入りだったパン屋から、焼きたての良い匂いが辺りに漂ってくる。その匂いにつられてつい口から言葉が溢れた。
「いい匂い…!」
「ふっ、ここで朝食を買おうか」
食欲をそそる香ばしいにおいを大きく吸い込もうと両手を広げて深呼吸をしているリサを見て、後ろにいたジルベールは笑いながら声を掛けた。
「もうっ、笑わないでください」
リサは子供っぽい自分の行動を恥ずかしく思いつつクスクス笑うジルベールを仰ぎ見ると、深緑色の瞳が優しげに細められ、痛いほど真っ直ぐに見つめられている。