おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~

彼女が暮らしている児童養護施設『ひまわりの家』には、4歳から18歳までの子供が20人程入所している。
事情は様々だが、そこについて干渉し合うことはない。

住み込みでずっと施設にいてくれる岩田佳代と竹内早苗をはじめ、職員もみんな優しくて家族のように接してくれる。

当番制で一緒に朝食を作ったり、小学生の頃には宿題も見てくれた。学校やバイト先であったことも話すし、友達同士の喧嘩の仲裁もしてくれることもあった。

昔は親がいないことをからかわれたり、今でも施設暮らしだと話すと相手に気まずい思いをさせてしまったりと、嫌な気持ちになることだってないわけではない。

両親がいなくて寂しくなかったといえば嘘になるが、一緒に生活してる子達とも仲良くしているし不幸ではない。

ずっとこのままここにいたい…。

そんな欲求を持ってしまうくらいには、今の生活に不満はなかった。


しかし、もうあと数日でここを出ていかなくてはならない。

『ひまわりの家』に居られるのは基本的に18歳までと決められている。

もちろん未成年なので20歳までは延長も可能だが、梨沙は大学に行かずに働くことを選んだので、ここを出ることにしたのだ。

自分で生活出来る環境が整えば出ていくべき。
この場所を必要としているもっと小さな子がいるかもしれないのだから。

そう考えて退去を決めた。

年が明けて新学期が始まる前にみんなに打ち明け、新しい就職先に通いやすい小さな賃貸アパートを契約するのを岩田に手伝ってもらった。

職場は百貨店。子供服売り場の担当として店頭に立つ予定だ。
メイド喫茶での時給を考えればあまり良いとは言えない給料だが、今どき高卒で正社員として雇ってくれるだけありがたいと梨沙は思っていた。


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