おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~


『梨沙ちゃんもついに独り立ちかぁ。寂しくなるわね』

この場所を去ると決めたと報告した時、施設のリビングで温かいお茶を飲みながら、岩田がしみじみ言っていたのを思い出す。

『あなたは聞き分けが良くて育てやすい子だったけど、我慢しすぎていないかよく心配になったものだわ。最近じゃ子供たちの面倒まで見てくれて』
『ここ3年くらいで、小学校前の子結構増えたから…』
『決して歓迎していい事情じゃないけど賑やかになったわね。みんな梨沙ちゃんに懐いちゃって』

元々細い目をさらに細めてこちらを見る岩田は、まるで本当の母親のように慈愛に満ちている。

『自分の分のおやつあげたり、この前は夜中のトイレにも起きて一緒に行ってくれたんだって?』
『あはは、美佐ちゃん1人じゃ行けないって泣いちゃって』
『私達じゃなく梨沙ちゃんの所に行っちゃうんだから。あなたはいつでもいい母親になれるわね』

両親がいなくても、自分だけの家族がいなくても、決して自分は不幸ではない。

梨沙が本気でそう思えるのは愛情を持って育ててくれた彼女たちがいたおかげだった。

『岩田さん、ありがとう。お世話になりました』
『やだ、まだあと2ヶ月はあるでしょ!それまではうちで最年長者として助けてもらうわよ!年末の大掃除、結局終わってないのよ』

娘を嫁に出す気分だわとおちゃらけて笑う岩田の瞳にうっすらと涙が浮かんでいたのを見て、梨沙は幸せな気持ちになりながら「もちろん!」と笑顔で返した。



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