辺境の貧乏伯爵に嫁ぐことになったので領地改革に励みます

王の裁定

 二日後、アンジェリクはセルジュに付き添われて王の私室に向かった。マリーヌとフランシーヌも後ろに控えている。
 王は謁見の合間に時間を割いて私室に招いてくれたのだった。

 セルジュは王の居間には入らず、複数名の証人とともに控えの間で待機する。

「コルラードには災難だった。命はとりとめたと聞いて安心した」
「気にかけていただき、ありがとうございます」

 王の時間を無駄にしないために、アンジェリクはすぐに最初の陳述を始めた。

「父を襲った男には、襲撃を依頼した人物がいることがわかりました」
「物取りの犯行と聞いているが、そうではなく、誰かがコルラードの命を狙ったというのか」

 その通りだとアンジェリクは頷く。
 王の視線は微妙だった。
 以前、エルネストとの婚約を破棄する原因となった、学園での事件のことが頭にあるからだろう。

 学園で起きた嫌がらせや窃盗の犯人が全てアンジェリクだったというものだ。
 弁明の機会もないままブールに送られたので、王の中ではアンジェリクは卑しい女のままだ。
 エルネストと婚約していても、王とは滅多に話したことがなかった。忙しい人だからだ。
 話したことはなくとも、勤勉で、真摯に政治に取り組む王をアンジェリクは尊敬していた。だから、王に失望されたことだけは、残念に思っていた。

 あの時の誤解を、先に解いたほうがいいかもしれない。
 この王は、卑しい者の言うことを信じないだろう。アンジェリクの時はたくさんの証人がいたので、王の判断を責めることはできない。

「先に、少しだけお時間をください。長くはかかりません」

 王の許可をもらい、七、八名の元令嬢たちを私室に通してもらった。
 伯爵夫人や侯爵夫人となった友人たちは、自分や嫁ぎ先の立場を悪くする可能性が大きいにもかかわらず、過去の証言は偽りだったと王の前で懺悔した。

「アンジェリクは何もしていません」
「全くの無実でした」

 この場だけの言葉ではなく、これまでにも何度も手紙を書いて詫びていると彼女たちは言った。それを裏付けるように、手紙の束が側近の手によって、王に差し出された。

「そこに書いてあることは、どれも私個人に宛てたものです。どうか、それを元に私の友人たちを裁くのはご容赦ください」

 王は何通かにさっと目を通し、難しい顔になった。

「ここには、全ての元凶はシャルロットにあると書かれているようだが……」

 元令嬢たちが一様に頷いた。
 とりあえず、彼女たちには「下がるように」と王は言った。
 沙汰は追って伝えると告げられ、みんなうなだれていた。

 過去に犯した罪を思えば仕方のないことだが、今日ここで見せてくれた真心を斟酌してもらえればと願う。
 王は、さらに何通かに目を通した。

「アンジェリク、私は、間違った判断でおまえを辺境に嫁がせてしまったようだ」

 許されることだろうかと、王は小さく呟いた。
 アンジェリクは心を打たれた。王が臣下に頭を下げることはない。
 これは最大限の謝罪の言葉だ。

「もったいないお言葉です」
「代わりと言ってはなんだが、望みがあれば言いなさい」
「では、どうか、先ほど罪を告白した者たちをお許しください」

 王は一瞬、虚を突かれた顔になった。
 それから何かを得たというように深く頷いた。

「許そう」

 そして、先を促す。

「コルラードを襲わせた者に心当たりがあるのか」
「はい」
「それは、誰だ」
「お許しいただければ、今からこちらに呼びたいと思います」

 王が軽く頷くと、次の間の扉が開き、シャルロットが入ってきた。
 口をへの字に曲げて、恨めしそうにアンジェリクを睨む。シャルロットにはバラボー子爵ではなく、エルネストが付き添っていた。

  
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