辺境の貧乏伯爵に嫁ぐことになったので領地改革に励みます
 ドラゴン便の計画も話した。

「それはまた、壮大な……」
「空を行く場合も通行税ってかかるかしら?」
「あれは街道の整備費だからな。よほどガメツイ領主でなければ取らないだろう。検問も通過しないし」

 ルイーズを乳母に預けたアンジェリクが、ドラゴンを見るかと聞くと、二人は緊張した様子で頷いた。
 城の裏手に回り、建て増しして大きくなった厩舎を目指す。造りは簡素で、作りかけのように隙間が多い。
 城並みの大きさを誇る建物を見て、コルラード卿とフェリクス卿は唖然としていた。

 厩舎の前で、セルジュが二人を待っていた。

「どうぞ」

 なぜか手と手を取り合って、おそるおそる厩舎を覗いた大公爵たちは、緑色と紫色の小さなドラゴンを見た瞬間、ぱっと互いの手を放して瞳を輝かせた。

「小さいのもおるのか」
「この前言ってた、卵から孵った子たちですよ」
「可愛いな」  

 ボアとビビはすでに大型犬ほどの大きさになっているが、最初に見たドラゴンのイメージがあるからか、小さく思えたらしい。
 動きや仕草の可愛さに、二人はすっかり夢中になった。
 近寄って撫でたそうな素振りさえ見せていたが、奥からのそのそ近づいてきたラッセを見て「ギャッ」と叫んで戻ってきた。

「あんな大きいのもいるのか」
「あれが、ラッセです。あっちにいるのが、サリとブランカ。小さいのは、緑色のがボア、紫のはビビと言います」

 二人は頷き「大したものだ」と感心した。

 それから真面目な顔になり、ドラゴン便はすごいアイディアだと褒めた。

 フクロウ便は競合されると困るので、真似できないように、あれでも値段を抑えている。
 自分たちで飼育して慣らして使えるようにするより、このくらいの値段なら頼んだほうが楽だと思わせる設定にしてあるのだと、コルラード卿が説明する。

「だが、ドラゴン便とは……。誰も真似することはできない。好きなだけ高い値段が付けられる」
「そこなんですが……。アンジェリクと相談して、やはりフクロウ便のように、誰も真似る気が起きない、良心的な価格設定にするつもりなんです」
「何?」
「いろいろ考えたの。ドラゴン便が儲かるってなったら、ドラゴンを捕まえようとする人が出てくるでしょ?」
 
 ドラゴンを捕まえるのは簡単なことではないし、そんな人が現れでも、まず捕えられない。それでも、莫大な利益を生むとわかれば欲の深い者が無茶をする可能性がある。

「捕まえ方も、世話の仕方も、今はまだ、セルジュとうちのドラゴン使いしか知らないの。みんなの待遇をよくして、ドラゴン便の価格を抑えたら、誰も、ドラゴン使いを引き抜けないから」

 今いるドラゴン使いは、みんな信用できる者ばかりだ。
 引き抜きに応じる者がいるとは思わないが、仕組みとして引き抜いても儲からないようにすることが大事だとアンジェリクは続けた。

「私たちとドラゴンが一緒に生きていける世の中になるには、時間がかかるの。ドラゴンの飼育には鉱物が必要だから、ドラゴンを増やし過ぎてもいけないし」

 数をコントロールすることも含めて、他者が参入できない仕組みにしたい。
 アンジェリクとセルジュは、いずれドラゴンが戦争の道具にされる日が来たら、エスコラに返すサリとラッセ以外の全てのドラゴンを森に放すことも考えている。
 そのために、野生で生きていける訓練も積ませるつもりだ。
 そして、そんな日が来ないように、自分たちができることを、できる限り考えながら運航の準備を進めていた。

「それで、利益が出るのか」
「出るわ。ほかの人の荷物を届けるのは、ついでなの。私の目的は、今まで鮮度が落ちて運べなかったものを、王都やあちこちの町に運ぶことだから」
 
 切り花や魚介類、食肉、葉物野菜などを取り扱うつもりだと言った。

 ドラゴンは野生のままにしておくのが一番いいのかもしれない。
 それでも、もう一緒に暮らし始めてしまった。ほかの動物たちと同じように、人の暮らしの中に組み込むのなら、どんな形が一番いいか考えながら共に生きていきたい。
 五匹のドラゴンたちを見ながら、この子たちとの未来を幸せなものにしたい心から願った。

「アンジェリク、おまえという子は……。我がモンタン公爵家がおまえを失ったの、は大変な痛手だ」

 コルラード卿がなにやら残念そうに言った。

「フランシーヌは賢い子よ。クロードも立派な人。あの二人がいれば、大丈夫」
「そうか。そうだな……」

 お茶にしましょうか、と言ってアンジェリクは踵を返した。
 そろそろルイーズのところに行きたい。

「お菓子を作るのが得意な人が入ったの。お父様は甘いものがお好きでしょ?」

 城に向かって歩き始めると、ポリーヌを乗せたブランカが厩舎を出てきて飛行訓練を始めた。

「ポリーヌが飛ぶわよ」

 コルラード卿とフェリクス卿が見守る中、小柄な少女が操る白いドラゴンがふわりと青い空に飛び立った。

「おお……」
「あれが、国中を飛ぶ日がくるのか……」

 厩舎からセルジュとほかのドラゴン使いたちも出てくる。 
 空高く舞うドラゴンをみんなで見上げて、大きく手を振る。

 新しい未来がすぐそこまで来ていた。

                       

 -了ー

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