辺境の貧乏伯爵に嫁ぐことになったので領地改革に励みます

新しい土地

 丸々三日半の馬車の旅を続けて、ようやくブールに着いた。

 途中で立ち寄った領地では、人々が腫れもののように扱うので、少し辟易した。

 別にアンジェリクは傷ついていない。

 わけのわからない言いがかりをつけられたのには驚いたけど、嫌な思いをした友だちがいたのに、親身ならなかった自分にも悪いところがあったと思っている。

 知らないものは知らないなどと言わず、何が起きたのかをよく聞いて、本当に何も見たり聞いたりしていないか考えて、真剣に事件に向き合っていたら、きっとこんなことにはならなかった。
 その点は深く反省している。

 でも、もう起きてしまったことは仕方ない。
 真相解明と、場合によっては真犯人を糾弾しなければならないだろうが、今はその時期ではない。

 気持ちを切り替えて、これからのことを考えようと思った。

「見えてきましたよ」

 王都から馬車を走らせてくれた御者が話しかけてきた。
 アンジェリクは最後の機会だからと、賓客用の一番立派な馬車に乗っていた。ちなみにふだん乗っていた二台の馬車のうち,一台はアンジェリクがもらうことになっていた。

 御者の言葉に窓から顔を出すと、荒れ地の向こうに石の城壁が見えた。
 
 馬車がガタンと揺れる。
 ブールに入ると、とたんに道が悪くなった。

 下手にしゃべると舌を噛みそうで、アンジェリクは座席に身体を戻して手摺につかまった。

 ブールに一番近いモンタン公爵領であるヴィニョアを出たのは朝早くのこと。今は日が天頂にある。

 手紙を書いても、届けるためには半日かけてヴィニョアの中継地に行かなくてはならないわけだ。
 そこから王都までオウルで半日。早馬を使うとどのくらいだろう。おそらく丸二日か。

 遠いな、と思った。

 やがて馬車の列は城門の前で止まった。

 先頭の馬車に乗っていたモンタン家の執事フレデリクが門番に近づく。二人の門番は目を丸くして四台の馬車を見ていた。

「アンジェリク・モンタン嬢をお連れした」
「承っております。どうぞお通りください」

 門が開き、馬車が中に入っていく。
 中庭にとまった馬車から、侍女の手を借りて降りた。

 目の前に建つ城を見て、アンジェリクは呆然とした。

 窓に嵌った玻璃はところどころ割れていて紙で補強されている。
 板が張られているところもあった。
 壁には苔や草が生え、何よりすごいことに、片側の屋根が崩れて建物の中が見えている。
 
 これは……、聞きしに勝る貧乏伯爵に違いない。

 門番の一人が城の中に入っていった。
 主を呼びに行ったらしい。
 門番と従僕を兼任しているのだ。

 アンジェリクの隣で侍女が心配そうに囁いた。

「お嬢様……、旦那様にお話して、誰か寄越しましょうか?」
「誰か? なら、あなたがここに残る気はある?」
 
 侍女が息をのむ。

「嘘よ。でも、自分が来たくない場所には、ほかの人も来るのは嫌かもしれないわよ」

「すみません。軽率なことを言いました」
「いいの。あなたの気持ちは、ちゃんとわかったから。ありがとう、気にかけてくれて」

 侍女がうつむく。少しして、意を決したように言った。

「やっぱり、私、残ります。お嬢様のおそばに……」

 アンジェリクは笑ってしまった。

「大丈夫よ。ここにも誰かいるはずだし、いなければ、自分でなんとかするから」
「でも……」
「心配しないで。私が大丈夫って言って、大丈夫じゃなかったことがある?」
 
 ちょうどその時、城の中から一人の男性が現れた。

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