HONEYBEE(1)～アラフォードクターと一夜から始まる身代わり婚～

「傷つくとか貴方が決めつけるコトじゃないでしょ？」

「智咲先輩…」

「貴方のお母さんのコトを考えると心が痛むけど。貴方のお母さんのように瑞希がそうなるとは限らないわ」

「それもそうだな」

久世さんは智咲先輩の言葉に相槌を打って、手に持っていたグラスの中のワインを見つめた。
私は静かに乾いた喉にウーロン茶を通す。

自分だけを見てもらいたい。愛して欲しい。
久世さんの母親の言葉に出来なかった想いの慟哭が手に取るように分かった。

私だって、隼也さんのコトを。
愛されなくてもいいとそばに居るだけでも、お姉ちゃんも身代わりでもいいと思いながらも、人は段々、貪欲になっていく。

今の私がそうだった。

だから、君だけを見ている。

久世さんのその甘い囁きを私は拒めなかった。

私だけを見て欲しい。
それが私の隼也さんに対する願いだから…