いやな、やつ



刹那だった




ブレスレットが光る左手を引かれて
整った顔がすぐそこに迫り



───強引に、唇を奪われた。




そして、流れるように耳元に寄せられた唇が掠れた声で



『──好きだ』



熱く、囁いた。




見たこともないくらい顔を真っ赤にしたりんご倉持は私を離すと



「春には、やらねぇから」



揺れ動く瞳で私を一瞥し
そのまま駆けて行った。



ポカンと、立ち尽くす私。



『…世奈ばっか、可愛いって思ってたとか』



じわじわと

真意を聞くことのできなかった倉持の言葉が、ゆっくりと脳に侵食する。



突然のキスに驚いて感覚の無くなっていた私は、また熱く体を火照らせたのだった。


< 19 / 22 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop