獅子だからと婚約破棄された私だけど、番に出会ってとても幸せです。
「ソーニナとの婚約を破棄するなんて!! 王太子殿下は、許せませんわ」
「私の可愛い、ソーニナ。落ち込んでいるでしょう? でもあんな社交界の場で婚約破棄をするような存在との婚約を破棄できてよかったですわ!!」
「父上が陛下に抗議してくれているからね。ソーニナ、君に良い縁談を持ってくるよ」






 もうすでに嫁いでいるお姉様二人と、プロッヘン公爵家を継ぐ予定のお兄様が三人ともお怒りの様子だった。ちなみに両親も怒っていた。陛下たちに抗議をして、交渉中らしい。
 でも私は家族ほどに落ち込んではいない。



 というのも私は、王太子殿下に関心がそこまでなかった。美しい人だとは思っている。それに王太子としてもそれなりに有能な人だった。ちょっと頭が足りない所はあるけれど、女性陣に囲まれていたものだ。
 美しい茶色の髪に緑の瞳。彫刻のような美しさで、人を魅了する王太子。……でもなんだろう、私は綺麗な人だってしか思えなかった。
 そもそも王太子殿下以外でも、誰かに恋をしたことは私はない。なんというか、あんまり関心を持てなかった。周りの女性たちが、あの人の事が好き、あの人が素敵と思う気持ちが中々理解出来ない。そんな私は、十六歳になってもまだまだ子供なのかもしれない。








「お姉様、お兄様、ありがとうございます。でも私、王太子殿下と結婚してもやっていけると思っていなかったので、いいかなっては思っているのですけれど」
「ソーニナ、なんていじらしいの!! ショックでしょうに」
「いえ、本当にショックはないのです。それに私、結婚するなら私を全て受け入れてくれる方の方がいいかなって。私、寝起きに完全に獅子の姿になっている時もありますもの。起きた時に妻が獅子だったらびっくりでしょう」






 私はまだ少しは制御ができていて、だからこそ顔や耳や手のみが獅子になる程度ですんでいるのだ。本当に気を抜いているときは、完全に獅子の身体になる。家族はまだ慣れているからか、悲鳴を上げたりはしないけれど、新人の侍女などには眠っている獅子の姿の私に怯えられてしまうことも少なくはない。







「ソーニナは獣人の血が強く出ているからね。獣人たちのように番のようなものを本能的に見分けているのかもしれないね」
「ああ。確か獣人は番っていう運命の相手がいるんでしたっけ」
「まぁ、それが絶対ではないらしいけれど、でも番が居たら番と結婚したいと思っている者が多いみたいだ。ソーニナにもそういう本能があるならそういうのもあるかなって」
「……そういうのは分からないけれど、そういうのだったら一生番っていうものに会えないこともあるわよね? やっぱり、私、お父様とお兄様が決めた相手と結婚するのが一番良いように思えるわ」





 番というのは正直良く分からない。


 この国に生粋の獣人はいないし、私も獣人たちとかかわりが深いわけでもないから、そのあたりは分からない。先祖たちの残した獣人の記録は見ることが出来るけれど、そこにもすべての情報があるわけではない。


 そもそもこの広い世界でそういう番と呼ばれるたった一人の存在と出会うことは難しいだろう。嫁ぐことなく、家に迷惑をかけるぐらいならば、お父様とお兄様が決めた相手と結婚したほうがいい気がする。




「ソーニナ。婚約破棄がされたばかりなのだし、もっとゆっくり考えていいのだよ。今まで王妃教育に勤しんでいて疲れているだろう? しばらくゆっくりしなさい」


 お兄様は私を甘やかしすぎだと思う。でもお兄様の優しさが何だか嬉しかった。





 それから私は、しばらく社交界も休むことになった。
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