毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす


『お母さん、ここ家の外だから落ち着いて』


叫び声を抑えるようにそう言って宥めるも、私の肩を力強く掴んでいる母は冷静さを取り戻してくれそうにない。


とりあえず、玄関の扉を開けて家の中に押し込むと、床に力なく座り込み下から鋭い視線を向けつつ私を責め立てる。


『ねぇ、どうしてお母さんの言うことを聞いてくれないの?』

『言うことって、例えば?』

『笑いなさいって言ってるのにくすりともしない。勉強するのをやめなさいって言っても遅くまでやり続けて隈を作る。運動も怪我すると体に残るかもしれないからやめてって言ってるのに……夏は特にランニングなんかするから白い肌が日に焼けていくじゃない』

『私も感情が無いわけじゃないから面白いとか楽しいとか、そういうのを感じたら笑うよ。でも、面白くないときは笑えない。勉強はやっといた方が将来の役に立つし、体力はあった方がいざというとき便利だから』


主に、逃げるときに。

世の中には変態が多いし。

断っても食い下がる変態には相手をせずに逃げるのが一番ということを、身をもって知っている。

そういうことが日常茶飯事だってことを母に話したことはないけれど。


『ああ言えばこう言う……生意気なその口は誰に似たの?それに、誰があなたを保護して養ってると思ってるの?あなたは、私の子供なのよ!子供は親の言うことを聞かなきゃいけない!反抗も口答えも許さない!!』


そんな親の言い分は子供からすれば暴論だ。一切の自由を与えないと言われているようなもので、私の人生なのにそこに私の意思は反映されない。


生きているのに死んでるも同然。


でも、もうそれを改めて言われたところで絶望なんてしない。私達がわかり合えないことはとうの昔にわかってしまったから。


私が何不自由なく生活出来ているのは両親のおかげでそれはちゃんとわかってるつもりだ。とても有難いことで、恩も感じている。


だけど、だからと言って明らかに間違っている親の方向性に従わなければいけない道理などない。
母が至極真っ当な育て方をしていたのならまだ服従の余地はあったが。


『私は……子供は、親のお人形じゃない。お母さんの言うことには絶対に従わない』


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