毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす

二人の間を流れる時間がいつもより遅く、沈黙の時間が長いのは気のせいじゃない。


なにかを話そうと口を開き、でもなにも話せなくて口を閉じる。それを無意味に繰り返していると。


「……ごめん」


突然、何一つ悪いことをしていない慎くんが喉から絞り出すように声を出した。

それから意を決したように一つ息を吐いてゆっくりとこちらへ向き直る。


「あのとき、あの女の子の言葉を信じたわけじゃなかったんだ」


慎くんはいつもと変わらない芯の通った視線を向けてそう言い切った。


だけど、私はそれを信じられない。

だって、慎くんは私から距離をとっていたし、水上くんから見てもそれは明らかだった。

私から離れる理由なんて、彼女の言葉を信じて可愛くない私に触りたくなかったからとしか考えられない。


「いくらなんでも初対面の子から聞いた話を鵜呑みになんかしない。でも、ときどきかれんとの間に壁を感じることがあったのも確かだから……目の前にいる彼女は僕に本当の姿を見せてくれてないかも、とは思った」