毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
「次はペンギンのコーナーらしいよ。行こうか」
その言葉に素直に従ってついていくと、大きな水槽の中は陸と水中のどちらも見ることが出来る。
陸をぺたぺたと忙しなく歩くペンギン。
勢いよく水の中にダイブするペンギン。
ぐんぐん水を切って端から端まで泳ぐペンギン。
どの子も生き生きとしていて見ているだけで癒される。
思わず口からため息が漏れた。
「ペンギン……飼いたい」
「可愛いね」
「うん、可愛い」
「僕も一緒に住みたいなぁ」
うん?水上くんは飼えばいいじゃない?
王子様と言われるだけあって結構なお金持ちだって聞いたことがある。
さっきだって水族館の入場料を払おうとしたときに私を制して、カードを使って払っていたし。
高校生でカード払いって、普通じゃない。
お金持ちならペンギンくらい飼えそうなものだけど。躾が難しいからとか現実的なことを考えているのだろうか。
確かにそこは大事なところだけども。
「あー、これは伝わってない」
「なんの話?」
「なにもないよ。気にしないで」
あ、そう。じゃあ気にしない。
私は水上くんに興味がないから。
別に興味……なんてない、から。
「ほら、まだまだ始まったばかりなんだよ?機嫌悪くならないで。今は僕のことなんて考えなくていいから、楽しもうよ」
子供を宥めるように頭をぽんぽんと撫でながら私の顔を覗き込む水上くん。
そんな彼ににっこりと作った笑顔を向け、
「もちろんだよ!」
私は気を引き締め、彼の手と視線から逃げた。