毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
「───楽しかったでしょ?」
目の前に広がる光景にただただ見惚れていると、水上くんが得意気に声をかけてきた。
薄暗い中でもぼやけることのない端正な顔がこちらに向いている。
その顔を見ていると、改めて彼もそっち側の人なんだと思い知らされる。
「水上くんはどうだった?ちゃんとお礼になったかな?」
彼の問いには答えずにそう尋ねた。
少しの陰りもない彼の笑顔を見ていたら、答えなんて分かりきっているけども。
「もちろん楽しかったよ。……あぁ、ここは嘘をついておけばまたお礼をしてもらえたかもしれないのに。失敗したなぁ」
「なんて言おうとお礼は一回きりだけどね」
「そっか、だったら素直に答えてて正解だったね」
私はその言葉に軽く笑いながら水槽に向き直った。
これ以上、彼と目を合わせることは出来ない。
私の心が大きく揺れているのがわかるから。
終わりにしたくないってわがままが大きくなっているのがわかったから。
「ねぇ、結城さん」
「なに?」
前を向いたまま返事をする。
わ、あんなところにエイが隠れてたのか。
砂に潜ってて見えなかった。
自然界は捕食や自衛のために擬態で溢れかえっているんだろう。
私の擬態も同じだな。