毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす


「水族館って、綺麗よね」

「そうだね。ロマンチックで告白するには最高の場所だと思うよ」

「水槽の中はたくさんの魚が自由に泳いでて、命がキラキラ光ってるみたい」


話が噛み合わないのは気にしない。
だってわざと無視して話を進めているから。

すると、水上くんは私がなにを言いたいのかと、ふざけるのをやめて話を聞くことにしたらしい。
空気を読んでくれたことに驚きつつも言葉を続ける。


「ここにいるお客さんたちもそう。家族連れとかカップルとか……みんな幸せそうに笑い合ってて輝いてる。それらを全部含めて綺麗だと思った」


ここに来ている人たちの内面が白いか黒いかは、私にはわかるわけもない。


でも、少なくともお互いに想い合っていることと、笑顔に偽りがないことだけはすれ違うだけの私でもわかった。



「そんななか、汚い私はこの素敵な空間で一人だけ浮いてる。煌びやかで楽しくて、もっと長くここに居たいと思ったけど。中の方へ進めば進むほど、自分の醜さが浮き彫りになったように感じて……酷く胸が痛んだ」



昔犯してしまった過ちと今みんなに見せている虚像。


常にチラつくそれを忘れることなど出来やしないのだ。


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