毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす


表には『かれんさんへ』。


裏には『晴より』。


さりげなく名前を書いているあたり、水上くんの策略を感じる。


「なにも難しいことは考えなくてもいい。僕は結城さんのことが好きってことだけ覚えていて。それから手紙を開けて欲しい」


……本当に彼を退けるのならば。


こんな手紙、今すぐ突き返すか、目の前で破いてしまうくらいしなければいけないんだ。


目を合わせて告白を断ることが出来ないくらい、私は彼に捕らわれているから。


手紙を開いてしまえばそこでもうおしまい。
私は今度こそ絶対に彼から逃げられなくなる。


それがわかっているのに。どうしても、彼を拒むことが出来ない。
すぐにでも手紙を開けて彼の気持ちを受け取ってしまいたいとすら思っている。


よく思い返せば、私は最初から彼を拒めなかった。
いつだっていつの間にか彼のペースに、思惑通りに動いていて。


彼の手のひらの上で安心して転がされていた。
それが決して嫌ではなかった。


だから、今回も。


「さて、目的を果たしたところで帰りますか」


欲に負けた私は、まんまと彼の策略にハマるのだ。



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